認知症患者さんのケアに携わり、はや8年が経ちました。
認知症患者さんの症状は千差万別でそれぞれに対応が違ってきますが、その中でも対応に共通する部分もあると考えています。

10年くらい前に認知症サポーター養成講座をとある市で受講しました。その際に地域住民の方から認知症の方に遭遇したら具体的にどう関わったらいいのか教えてほしいと意見が出ました。
確かに講座では認知症の理解は出来ましたが、具体的にどのような関わりをすれば良いのかについての説明が不足していたように私も感じていました。
結局、市の方からは具体的な関わり方への回答は無くモヤモヤしていたのを覚えています。当時の私は認知症ケアへの知識や技術もないので、具体的な関わりについて教えてほしいなと思っていました。
しかし、今では毎日の認知症患者さんとの関わりの中で、前述の共通部分の対応を認知症患者さんへの具体的かつ基本的な関わりとして実践しています。
今回はその実践方法を3つご紹介したいと思います。
1 目をしっかり合わせましょう
認知症患者さんは物や人を認識する認知機能の低下があります。
という事は、何かを見てそれが何であるのかを認識して理解する能力が低くなっていると考えてください。
さらに視野自体もとても狭くなっています。たとえば前を向いている患者さんの真横に立ったとします。認知症では無い人だと真横に人が立っていると認識しますが、認知症患者さんは違います。
真横に立っていると認識していません。
するとどうでしょう。急に肩をポンと叩かれたら?
そう、驚きますよね。私たちだってそうです。全く認識してない所から人が出てきたり、肩を叩かれたら驚くと思います。
さらに例えを出しますと、車椅子に乗った患者さんに車椅子の後ろから全く見えてないにも関わらず、お風呂沸きましたよと声かけします。高齢者であれば難聴の方も多いです。
患者さんが認識していないのに車椅子が動き出し何処かに連れて行かれる。着くと急に服を脱がされ始めるとしたら恐怖でしかありません。
では患者さんと関わる時に先ず何をするかというと、目を合わせます。

目を合わせるという事は患者さんの真正面から近づき自分が患者さんの前にいると認識してもらうんです。
患者さんの視線を捉えて目が合ったことを確認し始めて話しかけることが大切です。目を合わして会話した上でケアに移るという流れを取りましょう。
2 患者さんの世界を否定しません
患者さんの世界を否定しません。正しくこの言葉の通りです。どういう意味かと言いますと、患者さんが今認識しているその世界が患者さんにとって現実だからです。
ある女性患者さんが「ナースステーションに財布と通帳を預けているから返してちょうだい。」と来られます。孫が隣の部屋で待ってるからすぐに持ってきてと言います。
もちろん、ナースステーションに財布と通帳は有りませんし、お孫さんもいらっしゃいません。
その場面で正直に財布と通帳は預かってませんし、お孫さんは来てませんよと女性患者さんに話をしたとしたら、その患者さんは看護師を泥棒呼ばわりするでしょう。
具体的にどんな対応をすれば良いかの一例としては、「分かりました。すぐに財布と通帳をお持ちしますので、お孫さんとお部屋でお待ちいただけますか?」と返答します。
患者さんが安心してお部屋に帰ってもらえればそれでほぼ正解の対応です。お部屋に帰られた頃にはナースステーションへ来たことを忘れてベッドで休まれています。
これは認知症ケアをする者の患者さんを傷つけない優しい嘘なんです。

ケアする者も毎日苦心して応対している現状です。この対応が最善なのかどうかは分かりません。
しかし、患者さんの世界を否定しないように寄り添った対応のひとつとしてもいいのではないでしょうか。
3 ウロウロしていたらお茶かな?トイレかな?
夕方になるとそわそわし始める患者さんがいらっしゃいます。ずっと廊下を歩く患者さんもおられます。そんな時は少しお休みされてはどうですかといって、お茶でもどうぞと差し出してみます。
お茶を差し出すことでホッとひと息ついてそわそわが収まる患者さんもいらっしゃいまし、ずっと歩くという行為からほんの数分でも休んでもらうことができます。
また、いつもは席に座って過ごされる方が急に立って廊下を歩き始めたり、ナースステーションに来られたりする時は、トイレで排尿かなと予測します。
オムツ内の排尿を確認してみたり、トイレへ誘導して排泄を確認したりすると多くの場合そうであったりします。
患者さんの普段の様子をしっかりと把握しておくことが重要になります。
以上、あなたも出来る認知症の方への優しい関わりをお伝えしました。日々の認知症ケアや専門的研修等の学びから認知症患者さんへの関わり方を常々考え関わっています。
患者さんの症状は千差万別で画一的な関わりはありませんが、これからも共通部分などを見つけ出来る限り患者さんが穏やかに過ごせますように努力して参る所存です。
ではまた。