看護研究

ほんのちょっぴり覗いてみる認知症現場の最前線

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人間いずれ誰もが老いて認知機能が低下します。
65歳以上なら5人に1人、85歳以上なら半数以上が
認知症になる
と言われています。

 

 

誰もが認知症になりたくないと思っているでしょうし、
誰もが自分の事として考えないですよね。

 

 

私だってそうです。自分が認知症になるなんて想像できませんし、したくありません。

 

 

しかし、認知症になる可能性は誰にもゼロではありません。
行き着く先は同じです。今認知症の現場の最前線が
どのような現場なのか少し覗いてみておいてもいいのではないでしょうか。

 

 

私たち看護師や介護スタッフは毎日全力で患者さんと向き合っています。
仕事として楽しみつつも、真剣に患者さんが人として豊かな人生と最後に向き合えるようにです。

 

 

今回はその現場をほんの少しだけお話しさせていただきます。
ちょっとだけ将来を想像しながらお読み頂ければ幸いです。

 

 

1 最終の砦

 

 

精神科認知症治療専門棟。知らない方も多いと思いますが、認知症って精神科なんですよ。だから家族が入院するのに敷居が高い場合があります。

 

 

自分の家族が精神科に入院するものですから、世間体もあるでしょう。入院に躊躇する家族ももちろんいらっしゃいます。

 

 

昔に比べれば、精神科という響きも統合失調症や躁うつ病、そして認知症がメディアなんかで取り上げられ、

 

 

言葉がメジャーになったおかげで少しハードルも低くなってきたように思います。

 

 

当院では、認知症のBPSD(行動・心理症状; 暴言や暴力、興奮、抑うつ、不眠、昼夜逆転、幻覚、妄想、せん妄、徘徊、もの取られ妄想、弄便、失禁)が激しく家庭や一般病院で療養生活を営むのが困難な患者を受け入れています。

 

 

※BPSDは全ての認知症患者に見られる訳ではありません。

 

 

国としては、包括的な地域・在宅医療を推進していますが、現状としてBPSDが激しい認知症患者を24時間家庭で介護するのは無理があると考えます。

 

 

介護を長男の嫁がする事になり、義母からお金を嫁が盗んだと近所に言い回られ、介護をしてるのに泥棒呼ばわりされ疲れ果てて義母を入院に連れて来た嫁

 

 

昼夜逆転した夫が寝てくれない、家から突然居なくならないか心配で2週間以上ほとんど寝ていなくて自分が倒れそうになる妻

 

 

妻を認識出来ない夫。そんな夫のBPSDを制御しようとすると暴力を振るわれ続けた妻

 

 

色んな家族が究極まで追い詰められて入院まで漕ぎ着けることも少なくありません。

 

 

家族は患者を24時間休みなく見続けなければなりません。ほっとひと息することすら出来ないことも多いのです。
それが365日続くと思うとどうでしょうか。

 

 

家族の方が先に倒れてしまう。

 

 

私はそう思ってしまいます。全ての家庭がそうとは限りませんが、特にBPSDの激しい患者がいる家庭では家庭が崩壊してしまうのではないかと考えてしまいます。

 

 

そういった背景もあるのでしょうか。私は自分の中で当院における現場はそういった家庭や家族、そして患者自身の最終の砦という思いがあります。

 

 

どこの施設も受け入れが難しかったり、タイミング悪く入院出来なかった時の最後の受け入れ先という思いです。

 

 

危機的な状態にある家族が通常の生活を取り戻し、患者を安全に預かることで、心穏やかに双方が過ごせるように支援する大切な役割があると自負しています。

 

 

また病前に社会的責任の大きかった方々も入院して来られます。パイロット、世界的演奏者、校長先生、会社役員、銀行員、警察官、看護師、飲食店経営者など様々な経験をされた方々です。

 

 

どんな地位・職業にあっても人であれば、最後は同じく土に帰り無に帰します。

 

 

最終の砦であって受け皿であるという気持ちを持って患者へ接し、患者がその人らしく残りの生活が送れるようにケアをしていく責任と誇りを持っています。

 

 

2 足りない!マンパワー

 

 

マンパワーはいつも不足しています。手厚い看護は物理的に難しいのが現状です。患者の数と照らし合わせてスタッフの数が十分とは言えません。

 

 

看護師、介護士、介護スタッフはキツい、汚い、危険の3Kが今も揺るぎませんし。私の働く施設では給料、福利厚生等の待遇も良くありません。

このような現状で人が集まってくるのは非常に難しいと考えます。

 

 

認知症ケアにおいて業務を回すのが精一杯の時もあります。

 

 

皆さんの家族や将来の私や皆さん自身を受け入れる体制は良いとは言えない状況なのです。

 

 

先程述べましたが、病前に社会的な地位も名誉もあったような方々ですら最後は家族も看ることが出来ずに入院してきます。

 

 

自分は決してそうならないということはありません。

 

 

現場を良くしようと奮闘しています。患者対応についてはユマニチュードを取り入れ患者に優しく接するという具体的な方法をスタッフに伝え実践しています。

 

 

またアンガーマネジメントを活用し職員間及び職員・患者間のイライラ軽減に努め、スタッフが穏やかに患者へ接することが出来る環境を整えています。

 

 

この事により、患者対応はここ数年間で見違えるように良くなりました。

 

 

将来きっとお世話になる現場の環境を、少しでも患者がその人らしく心穏やかに生活でき、スタッフが生き生きとそしてのびのび楽しく働けるそんな場所にしていきます。

 

しかし、スタッフの質の向上に努めたとしても限界があります。

 

 

特に夜勤ではマンパワーの不足を感じやすいです。

当院では患者50名に対して、看護師1名、介護スタッフ1名の体制になっています。数年前は介護スタッフの数が潤っていましたので、介護スタッフが2名いたんですが。

 

 

色んな事情で辞めていき、スタッフが1名不足のまま厳しい夜勤体制が続いています。

 

 

どんなことが起こり得るかと言うと、

例えば看護師か介護スタッフのどちらかが仮眠中、病棟に一人になることがあるのです。その時間に抵抗の強い患者が弄便し全更衣が必要になったとします。更衣に取り掛かろうと衣類をリネン庫に取りに行った際に、軽度認知症の患者からトイレに行きたいと言われます。

 

 

その時、ふと廊下の先を見ると寝ていたはずの歩行が困難な患者がフラフラしながら廊下を歩いています。

といった3方向からの一斉攻撃なんかは日常茶飯事です。

 

 

3つの中から瞬時に一番優先しなければならない患者へ急いで駆けつけなければなりません。

 

 

その他の例では、夜間に自室でいつの間にか車椅子から転落した女性患者を発見した時です。転落の拍子に前頭部を切開し血溜まりが出来た状態でした。

 

 

すぐに介護スタッフを大声で呼ぶのですが、それに反応した男性患者が2人近づいてきます。

 

 

部屋に入って来ないでくださいと伝えても伝わりません。大事が起こっている事を認識できないのです。

 

 

血溜まりを踏みそうになった一歩手前でスタッフが到着し難を逃れましたが、スタッフの少なさで起きるアクシデントは多いです。

 

 

車椅子からの転落自体も、もっと病棟ラウンドが出来ていれば防げた事かもしれないのです。

 

 

しかしながら、スタッフも1人の患者ばかりを看ていられません。最少の人数で全ての患者に対して食事、排泄、更衣、投薬、点滴等のケア業務を遂行していかなければならないのですから。

 

 

過酷な現状の中で患者の命と安全を最優先して取り組んでいます。

 

 

3 人権と安全

 

 

認知症の現場では常に課題となっている人権と安全。

 

 

当院では、当たり前ですが人権を尊重しています。
出来る限り拘束をせずに過ごしてもらうようにしています。
入院の際には必ず家族にもその事を説明します。

 

 

今回私が話す拘束は、安全な医療が受けられるように、また自傷他害がある場合や転倒リスクが非常に高い等で生命にまで危害が及ぶ恐れがあるを理由に車椅子に安全ベルトを着用して座ってもらうこととします。

 

ちなみに私たちは精神保健福祉法という法律に則って仕事をしていて、身体拘束はこのように書かれています。

 

 

基本的な考え方

(一) 身体的拘束は、制限の程度が強く、また、二次的な身体的障害を生ぜしめる可能性もあるため、代替方法が見出されるまでの間のやむを得ない処置として行われる行動の制限であり、できる限り早期に他の方法に切り替えるよう努めなければならないものとする。

(二) 身体的拘束は、当該患者の生命を保護すること及び重大な身体損傷を防ぐことに重点を置いた行動の制限であり、制裁や懲罰あるいは見せしめのために行われるようなことは厳にあつてはならないものとする。

 

 

車椅子で安全ベルトを着用する事は転倒のリスクをほぼゼロに出来ます。

 

 

不穏や興奮状態になったりして、車椅子ごと倒れてしまう方もいますので100%安全とは言えませんが、かなり安全に見守りをすることができます。

 

 

しかし、車椅子に一日中座り続けることになります。

筋力の低下はもちろん、自分で車椅子を動かせない方であれば行動範囲が極端に狭まり、脳への刺激は少なくなります。

 

 

すると、歩いて生活をしてADLが保たれていたのに、
一気にADLの低下、認知機能の低下が見られる場合があります。

 

 

私たち医療者としてはその事がある程度分かっているため、
もし点滴治療が必要で生命と安全確保のために安全ベルトをしていたのであれば治療が終わればすぐに外しますし、

 

 

不穏があって一時的に自傷他害の恐れがあり拘束が必要になり内服治療が行われたのなら、不穏が治まり落ち着いたのであれば出来る限り早期に拘束を解除して見守りをしていきます。

 

 

しかしながら、家族の思いが我々医療者と違う場合があります。

 

 

病院に入院していれば、転倒がないように見守っていてくれる。
車椅子にベルトも付いているので安心と思っています。

 

 

そんな時にこんな事件が起きます。

私たちはQOL(生活の質)とADLを保つ為に出来る限りベルトを外して自由に動けるようにしていく方向性をとります。

 

 

ベルトを外して見守りしているのですが、どんなに観察していても一瞬の隙ができます。車椅子から転落してしまう場合があるのです。

 

 

スタッフが見守りから離れる時にベルトを付ければ良いじゃないかと思うかもしれませんが、他の患者の対応をしていた等のほんの僅かがどうしても生まれるのです。

 

 

何で転落したんですか。ずっとベルトをしておいてください。

 

 

入院時に出来る限りQOLを保つ為になるだけ拘束はしないことをお伝えするのですが、やはり家族はそう思えないですよね。説明があったとしても何でベルト外したの?と聞いてしまいますよね。

 

 

医療者側もずっとベルトで拘束していた方が安心です。

 

 

ただ、法律を基盤として身体拘束はやむを得ない最終の手段であると理解していますし、

生活レベルや認知機能を出来る限り維持したいという医療者としての思いがあるんです。

 

 

ADLを出来る限り落とさないように、そして安全に十分注意して患者を見守ることが日々行われていて、カンファレンスを通じて検討されています。

 

都度、家族には説明し理解をいただいています。最大限の安全を配慮しながら、患者の生活の質が保たれるようにこれからも取り組み続けて参りたいと思います。

 

 

以上、ほんのちょっぴり覗いてみる認知症現場の最前線でした。
現場では少ないマンパワーの中で患者がその人らしさを保って安全に生活出来るように努力しています。

 

 

最終の砦として、家族も普段の生活が送れるように間接的ではありますが患者を入院として預かり支援しています。

 

 

コロナ禍で医療・介護施設の経営不安や倒産がニュースとして取り沙汰されているのを見ました。全ての医療・介護施設が何らかの不安を抱えていると思われます。

 

 

患者・家族のQOLを大切にするとともに、スタッフが疲弊しないように配慮しながら今後も精一杯やっていこうと思います。

私たちの将来を見据えて、出来る限り頑張ります。

 

 

ではまた。

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じゃっきー

愛媛県西条市出身で兵庫県在住の「精神科」看護師長。妻と息子2人の家族4人で、のんびりと暮らす『じゃっきー』。「看護師歴12年、警察保健師歴3年、大学教員歴5年」の経験あり。『40代から素敵な人生をおくる!』モットーに「妻がオススメするストウブ鍋の魅力」「韓国ドラマ」「簿記情報」や「兵庫県の家族でお出かけ情報」を発信中!

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